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【まとめ4】排便障害の診断と治療-大建中湯への期待

今回は先日出席した日本消化器内視鏡学会の教育講演会で興味を持った内容をまとめる第四回目。

4.「排便障害の診断と治療-大建中湯への期待」についてのまとめとなります。


教育講演会で学んだ内容のうち、私が興味をもった講演は
1.「肥満・糖尿病と肝細胞癌」
2.「Helicobacter pylori 陰性時代の上部消化管癌」
3.「大腸癌の疫学と診断および治療」
4.「排便障害の診断と治療-大建中湯への期待」
となります。

1.「肥満・糖尿病と肝細胞癌」については
https://www.adachi-ichou.com/blog/507.html
2.「Helicobacter pylori 陰性時代の上部消化管癌」については
https://www.adachi-ichou.com/blog/509.html
3.「大腸癌の疫学と診断および治療」については
https://www.adachi-ichou.com/blog/512.html
をご参照ください。


このまとめは私が教育講演で得た内容を勉強を兼ね備忘録的にまとめたものになります。
そのためわかりづらい点があるかと思われますがご容赦ください。
大事な点は【まとめ】に記載しております。
参考にして頂ければ幸いです。

 
4.「排便障害の診断と治療-大建中湯への期待」について

【まとめ】
1.排便の基礎
・排便には結腸の運動機能、直腸肛門機能、脳が関与する。
・肛門部には便を出す作用と出さないようにする作用がある。
・排便障害はこれらの作用の障害によって生じる。

2.排便障害の診断
・肛門視診や指診で肛門の状態を確認し、肛門疾患を検査する。
・器質的疾患が疑われる場合には注腸検査や大腸内視鏡検査を行い診断や除外を行う。
・機能的診断のために解剖学的検査や腸管の機能検査、直腸肛門部の機能検査が行われる。

3.便秘と便失禁
・便秘は種類によって治療が異なり、保存的治療や手術、骨盤底筋協調運動障害にはbiofeedback療法などが選択される。
・便失禁は無意識または意思に反して肛門から便がもれる症状。
・大建中湯が便失禁に対して有望な治療薬として研究されている。

4.大建中湯の治験結果
・機能性便秘患者における治験では、大建中湯群で直腸感覚の改善が認められた。
・直腸癌術後の便失禁における自験例では、大建中湯の投与が便失禁の改善に関連している。
・大建中湯は便失禁に対して有望な治療薬として研究されている。

 【内容】
1.排便の基礎
・排便には結腸の吸収・運動機能、直腸肛門機能、脳が関与している。
・直腸肛門部には、便を出す作用と出さないようにする作用の二つがある。
・排便障害は、これらの二つの作用の障害によって生じる。
肛門部には内外肛門括約筋と恥骨直腸筋があり、内肛門括約筋は自律神経支配の不随筋であり、他の筋肉は体性神経支配の随意筋である。
・恥骨直腸筋の収縮は直腸肛門角を鋭角化し、便の保持に役立っている。
・便を切る時には内外肛門括約筋と恥骨直腸筋が収縮し、便を我慢する時にもこれらの筋肉が収縮する。

2.排便障害の診断
・肛門視診や指診では肛門の状態を確認し、肛門疾患を検査する。
・器質的疾患(大腸癌や炎症性疾患など)の可能性がある場合、注腸検査や大腸内視鏡検査を行い診断や除外する。
・機能的診断のために解剖学的検査や腸管の機能検査、直腸肛門部の機能検査がある。
・解剖学的検査には排便造影検査や経肛門的超音波検査が使われる。
・直腸肛門部の機能検査には直腸肛門内圧検査があり、肛門括約筋の機能や直腸の感覚を評価する。 

3.便秘と便失禁について

【便秘】 
・便秘の種類によってtransit studyや腹部単純レントゲン検査を行い病態を分析する。
・解剖学的異常に起因する便秘の場合は保存的治療後に手術を検討する。
・骨盤底筋協調運動障害にはbiofeedback療法などの治療を選択する。
・慢性便秘症の診断ガイドラインに基づいて治療を行う。

【便失禁】
・便失禁は無意識または意思に反して肛門から便がもれる症状であり、ガス失禁も含まれる。
・調査によれば肛門失禁は女性、高齢者、出産経験、経腟出産、尿失禁と関連し、便失禁は年齢と尿失禁と関連している。
・漏出性便失禁と切迫性便失禁に大別され、混合性便失禁もある。
・重症度はクリーブランドクリニックやセントマークスのスコアで評価され、QOLの評価も重要である。
・初期保存的治療として食事、生活、排便習慣指導などが行われる。
・内服治療としてロペラミド塩酸塩やポリカルボフィルカルシウムなどが使用される。
・反応が不十分な場合、専門的治療を行い、経肛門的洗腸療法や仙骨神経刺激療法などの新しい治療法が選択される。

4.大建中湯の直腸肛門機能に関する治験について
・大建中湯は山椒、乾姜、人参、膠飴という食材で構成されてており、割合は2:5:3。
・大建中湯は腸管平滑筋の収縮作用を引き起こすため、アセチルコリン、モチリン、サブスタンスPという物質を介して腸管の運動改善を促す。
さらに、大建中湯はCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を介して血管拡張作用を持ち、血流改善に寄与すると報告されている。

5.大建中湯の直腸肛門機能に関する研究結果

●機能性便秘患者における治験:
・ 女性の機能性便秘患者45人を対象に、大建中湯を含む2つの内服群とプラセボ群でランダム化された治験が行われた。 ・大建中湯群では、最小直腸感覚閾値と直腸ガス感覚閾値が有意に減少し、直腸感覚の改善が認められた。
・最大安静時肛門内圧と最大随意収縮圧は大建中湯群で上昇したが、有意差はなかった。

●直腸癌術後の便失禁における自験例:
・直腸癌術後の患者7例に対して大建中湯を投与した結果、便失禁の重症度が有意に改善された。

●機能性便秘患者における便失禁改善に関する検討:
・157例の機能性便秘患者に大建中湯を投与した結果、便失禁の改善と便秘スコアの改善が見られた。
・直腸肛門内圧検査では肛門静止圧と随意収縮圧が有意に上昇した。

●イヌの肛門括約筋の収縮活性の検討:
・イヌの内肛門括約筋に大建中湯エキスを注入した結果、収縮活性が上昇し、大建中湯の内肛門括約筋に対する収縮作用が確認された。

●高齢の便失禁患者における安全性と効果の検討:
・70歳以上の便失禁患者21名に対して大建中湯を投与した結果、腹部症状の改善とCleveland clinic incontinence scoreの改善が見られた。
・便失禁QOLと直腸肛門機能検査でも有意な改善が認められた。
これらの研究結果から、大建中湯が便失禁に対して有望な治療薬である可能性が示唆されている。



【参照】
1) 日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編. 慢性便秘症診療ガイドライン 2017年度版:南江堂; 2017
2) 日本大腸肛門病学会編.便失禁診療ガイドライン2017年版:南江堂;2017
3) Maeda K, et al. J Anus Rectum Colon 2021; 5(4): 386-394
4) Iturrino, J., et al. Aliment Pharmacol Ther. 2013;37(8):776-85.
5) Abe T, et al. J Anus Rectum Colon 2019; 3(4): 160-166.
6) Maeda K, et al. J Anus Rectum Colon 2020; 4(4): 193-200.
7) Shimazutu K, J Anus Rectum Colon 2022; 6(1); 32-39.

教育講演で学んだ内容を日常診療に活かして参ります。 


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院長 飯田 修史

足立外科胃腸内科医院
【外科・胃腸内科・内科】
【五反野、青井のクリニック】

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かかりたい、かかってよかったといわれるクリニックを目指します。
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